研究内容
組織幹細胞の分離と性状解析 Isolation and characterization of tissue resident stem cells
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私たちの体は、ケガや病気の際に正常に戻そうとする自然治癒力が備わっています。それらの重要な役割を担っているのが、組織幹細胞です。組織幹細胞は体の様々な臓器に存在していますが、見た目では幹細胞かそうでないかを判断することが困難です。我々は、細胞表面抗原のタンパク質を目印に、幹細胞だけを分離する技術開発を進めています。ヒト・マウス骨髄をはじめ、ラットやブタ、羊の組織から幹細胞を分離することに成功しています。これらの幹細胞の性質を調べることで、生体内の恒常性システムを理解できるだけでなく、細胞を薬の様に使用する幹細胞治療に役立てることを目的としています。
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現在、地球規模でみると、人口は増加し続けており、畜産品の消費量は爆発的に増加しています。また、豚コレラや鳥インフルエンザなどの世界的なパンデミックが度々発生することによって、畜産品の供給は不安定となります。さらに、家畜を飼うにはエサとなる大量の穀物も必要となり、温室効果ガスの発生源となるので、これが地球温暖化の一因にもなっています。このような状況のなか、家畜に変わるサステイナブルな食肉開発の技術が求められています。 本研究室では、牛の筋組織から、幹細胞である筋サテライト細胞をフローサイトメーターで抽出して、発生過程を再現したオルガノイド を作成しています。このオルガノイド を大量に培養して加工することで、食べられる肉の開発を進めています。 地球温暖化の防止と自立的で持続可能な食料供給のために、動物個体に依存しない食肉培養法の確立を目指しています。
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高齢者の認知機能低下に起因する疾患は患者本人だけでなく、患者を取り巻くコミュニティー全体のQOL(Quality Of Life)を低下させることから、超高齢化社会を迎えた我が国において先行して取り組むべき重要な課題のひとつです。しかしながら、いまだに認知症の根本的治療法や早期診断法は確立していません。近年、マイクロバイーム(微生物叢)が様々な疾患に関与することが明らかになりつつあり、特に唾液細菌は腸内細菌よりも侵襲性が低く、全身の状態を反映している可能性があることからバイオマーカーとして注目されています。そこでわれわれは、官民研究開発投資拡大プログラム(Public/Private R&D Investment Strategic Expansion PrograM:PRISM)事業(PRISM)の一環として、認知症患者とその前段階である軽度認知障害(MCI)患者、対照群として正常配偶者等から唾液を提供していただき、次世代シーケンサーにより網羅的解析を行うことで、認知機能に相関して変容する特定の細菌を同定しました。今後は、さらにアルツハイマー型認知症を含む認知症患者等の検体数を増やし、機械学習を組み合わせることで、従来よりも予測精度の高い唾液細菌マーカーセットを用いた認知症の早期予測・診断法の開発を目指します。